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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)11858号 判決

原告

田島郷子

被告

岸野博

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、一九二万七八五〇円及びこれに対する昭和五九年六月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件交通事故の発生

原告は、昭和五九年六月九日午後四時五〇分ころ、静岡県沼津市内浦長浜三番地先の道路(以下「本件道路」という。)上において、同道路を口野方面から大瀬方面に向けて走行してきた被告運転の普通貨物自動車(以下「加害車」という。)に衝突され、左橈骨骨折、左肩、左胸、左腰打撲、頭外傷、第五頸椎骨折の傷害を負つた。

2  責任原因

被告は、前方を注視して安全に運転すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、前方を注視せずに走行した過失により本件事故を惹起したものである。

よつて、被告は、民法七〇九条に基づき、本件事故によつて原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。

3  本件事故によつて原告が被つた損害は次のとおりである。

(一) 破損した衣服の費用 六万六七〇〇円

原告は、本件事故によつて、次の衣類を破損され使用できなくなつた。

(1) 黒白ジヤケツト麻一〇〇パーセント 四万八〇〇〇円

(2) 黒ブラウス 九八〇〇円

(3) 白スラツクス 八九〇〇円

(二) 紛失した装身具 二〇万五〇〇〇円

原告は、本件事故現場において、次の装身具を紛失した。

(1) 白イヤリング 五〇〇〇円

(2) フランス製K二四金コインネツクレス 二〇万円

(三) 転院費用 一万四四〇〇円

原告が、順天堂伊豆長岡病院から新宿病院に転院するために要した費用は次のとおりである。

(1) ガソリン代(東京―伊豆長岡 往復) 九八〇〇円

(2) 高速道路代(東京―沼津 往復) 四六〇〇円

(四) 交通費 二万八一二〇円

原告の夫が原告の看護をするために要した交通費は次のとおりである。

(1) 昭和五九年六月一三日から同月三〇日までの間のうち一五日分、(新宿―昭島往復七六〇円)

合計 一万一四〇〇円

(2) 同年七月二日から同月二六日までの間のうち二二日分、(新宿―昭島往復七六〇円)

合計 一万六七二〇円

(五) 入院必需品 九万一三九〇円

原告は、本件交通事故による緊急入院のための身の回りの品、一般生活必需品及びパジヤマ等を購入した。

(六) 入院中の洗濯代、湯沸代 一万八四九〇円

原告が入院中に要した洗濯代等は次のとおりである。

(1) 洗濯代一回五〇〇円×二九回分

(2) 洗濯代一回四〇〇円×三回分

(3) 湯沸代一回九〇円×三一回分

(七) 入院中補足飲食物代 三万六八一〇円

(八) 入院中の電話代 一万一三三〇円

(九) 新宿病院から春山外科におけるCT検査のための通院に要したタクシー代 二一〇〇円

(一〇) 春山外科婦長、看護婦謝礼金 三万円

(一一) 診断書代 一万五〇〇〇円

一通五〇〇〇円×三通分

(一二) 退院後家政婦代 三万五三五〇円

原告は退院後強度の頭痛に見舞われ、家事に従事できず、止むを得ず家政婦を同年八月六日から同月一〇日まで五日間雇用した。

(一三) 養育費 二四万六〇〇〇円

原告は、入通院及び退院後も回復までの間、二人の子を養育することができず、原告の夫も勤めていたことから、止むを得ず、同年六月一一日から同年八月三一日までの八二日間、原告の父に養育を委ね、その間、養育費として一日五〇〇〇円を支出し、そこから自己の負担すべき養育費を一日二〇〇〇円として控除すると、合計二四万六〇〇〇円となる。

(一四) 入院慰謝料 七〇万円

原告は同年六月九日から同年八月三日までの五六日間入院したので、この慰謝料は七〇万円が相当である。

(一五) 通院慰謝料 五万円

原告は、退院後三日間の通院を要し、更に回復に一ケ月を要したのでこの慰謝料は五万円が相当である。

(一六)休業損害 三七万七一六〇円

原告は家事従事者であり、入通院及び回復まで、同年六月九日から同年八月三一日までの八四日間、家事労働に従事できず、右期間の休業損害として一か月(三一日)一四万八〇〇〇円の割合とし、前記(一二)のとおり家政婦を雇つた五日分を控除して、七九日分合計三七万七一六〇円の休業損害を被つた。

(一七) 治療費、看護料、コルセツト代、文書料

合計 二〇二万五〇四四円

4  損害の填補

原告は、被告から、治療費、看護料、コルセツト代、文書料として二〇二万五〇四四円の支払を受けた。

よつて、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき前記損害合計三九五万二八九四円から4の填補額を控除した残額一九二万七八五〇円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和五九年六月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実について、原告が本件事故により第五頸椎骨折の傷害を負つたことは否認し、その余は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実について、(一)は不知。(二)は否認する。(三)は不知。(四)ないし(一一)は否認する。(一二)は不知。(一三)は否認する。(一四)のうち、原告が昭和五九年六月九日から同年八月三日までの五六日間を入院したことは認め、その余は争う。(一五)のうち、原告が三日間通院したことは不知、その余は争う。(一六)は争う。(一七)は認める。

4  同4の事実は認める。

三  過失相殺の抗弁

本件道路は、中央線があり、歩車道が白線で区別されている幹線道路であるところ、原告が同道路を横断して中央分離帯に至るや、左右の安全を確めずに反転し、横断開始地点に向かつて小走りで引き返そうとして加害車の直前に飛び出したことにより加害車の前部に衝突したものであるから、損害額の算定に当たつて右過失を斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。被告は、同道路を、制限速度である時速四〇キロメートルを大幅に越える時速八〇キロメートル以上で走行していたのであるから、本件事故は過失相殺すべき事案ではない。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  原告が第五頸椎骨折の傷害を負つたことを除き、請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、いずれも原本の存在及びその成立に争いがない甲第一、第二号証によれば、原告が第五頸椎骨折の傷害を負つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  請求原因2の事実は当事者間に争いがないから、被告は、民法七〇九条に基づき本件事故によつて原告が受けた損害を賠償する責任がある。

三  そこで原告の損害について判断する。

1  入院雑費 五万六〇〇〇円

請求原因(五)ないし(八)はいずれも入院に伴い要した雑費であるところ、原告が本件事故により五六日間入院したことは当事者間に争いがなく、その間諸経費を支出したものと推認され、その損害としては、一日一〇〇〇円、合計五万六〇〇〇円と認めるのが相当である。

2  慰謝料 七〇万円

原告の受傷の内容と治療の経過その他諸般の事情を総合勘案すると、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては七〇万円をもつて相当と認める。

3  休業損害 四〇万一〇三二円

前記甲第一、第二号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件事故当時原告は主婦として家事に従事していたものであるところ、本件事故による受傷のため昭和五九年六月九日から同年八月三一日までの八四日間、家事労働に従事できなかつたことが認められる。そして、その間、原告は一か月(三一日)当たり一四万八〇〇〇円(同額は、賃金センサス昭和五九年第一巻第一表女子労働者学歴計、企業規模計の平均賃金額を超えないので、これを算定の基礎とする。)を下らない損害を被つたものと認められるから、原告の右期間における休業損害は四〇万一〇三二円となる。(なお、原告は、家政婦を雇つた五日間分の休業損害を控除して請求しているが、後述のように、請求原因3(三)の退院後家政婦代を認めることができないので、右五日間の休業損害を控除しないこととした。)

4  請求原因3(一七)(治療費、看護料、コルセツト代、文書料合計二〇二万五〇四四円)の事実は当事者間に争いがない。

5  請求原因3の(一)ないし(四)、(九)ないし(一三)及び(一五)の各損害に関しては、原告は右損害を被つた旨を供述するが、他にこれを裏付けるべき領収書等の書証は全く提出されておらず、右供述のみでは右損害を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠がない。

四  過失相殺

1  成立に争いがない乙第一、第二号証及び原被告各本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

本件道路は、口野方面(北東)から大瀬方面(南西)に通じる白線で歩車道の区別がある幅員約七・五メートル、片側一車線のアスフアルト舗装された平坦な幹線道路であり、口野方面から事故現場に差しかかる手前には、左側にゆるやかなカーブがあるため、やや見通しが悪く、最高速度は毎時四〇キロメートルに規制されており、本件事故当時、路面は乾燥していた。

本件事故現場は三津シーパラダイス専用駐車場に面した道路上であり、右駐車場の利用者のほとんどは駐車場係員の指示等に従い、現場から南方約六〇メートルの地点に設置されている歩道橋を利用して本件道路を横断していたが、右歩道橋を利用せずに直接道路を横断する者もおり、また本件事故当時は観光客が多く、右駐車場の出入口付近はかなり混雑していた。

被告は、加害車を運転し、本件道路を口野方面から大瀬方面に向けて時速約四〇キロメートルで走行していた際、原告が一九・三メートル前方を道路左側から右側に向けて横断するのを認めたが、原告は横断を続けるものと判断して、特に減速することなくそのまま走行したところ、原告はさらに約一・四メートル前進すると、突然反転し、左右の安全を全く確めず、横断開始地点に向けて小走りで引き返したため、被告は急制動の措置をとつたが間に合わず、被告車の前部を原告に衝突させ、もつて、本件事故が発生したものである。

2  右事実によれば、原告は、道路を横断するに際しては、走行している車両の有無等左右の安全を確認して横断すべき注意義務があるのに、これを怠り、本件道路中央付近に至るや突然反転して左右の安全を全く確認せず小走りで引き返した過失によつて本件事故を招来したものということができる。

したがつて、本件事故は被告の前記過失(当事者間に争いがない。)と原告の右過失が競合して引き起こされたものといわなければならず、右過失を斟酌し、原告の前記損害額から四割を減額するのを相当と認める。

五  損害の填補

原告が、本件事故に係る損害の填補として被告から二〇二万五〇四四円の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。

六  原告の総損害

以上の事実によれば、本件事故による原告の損害は、合計三一八万二〇七六円であるので、その四割を減額すると一九〇万九二四五円となる。ところで、前記のとおり、原告は、被告から二〇二万五〇四四円の支払を受けているので、原告の損害はすべて填補ずみである。

したがつて、原告の被告に対する請求は理由がない。

七  結論

よつて、本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本岳)

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